大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)31号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁の手続、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、原告主張の二点において、事実を誤認した違法のものである旨主張するが、右主張は、いずれも理由がないといわざるをえない。すなわち、

(一) 原告は、まず、本件審決が、第二引用例のフアイバーライザーが本願出願前公知の状態において使用されていたとしたことを事実誤認である旨主張するが、成立に争いのない甲第二号証及び同第三号証の一、二によれば、右本件審決認定の事実を肯認しうべく、他にこれを左右するに足る証拠はないから、原告の右主張は採用することはできない。

(二) 原告は、また、本願発明における粉砕装置と第二引用例のフアイバーライザーとは構造及び作用効果において格段の差異があり、これを同効のものとした本件審決の認定は誤りである旨主張するが、前掲甲第二号証、同第三号証の一、二と成立に争いのない甲第五号証とを比較すれば、両者は、被告指定代理人の指摘するとおり(被告の答弁の項参照)、その構造において格別の差異はなく、それぞれの奏する効果についても、格別の差異のあることを認めるに足る証拠資料は全く存しないから、原告の右主張もまた採用するに由ないというほかはない。

(むすび)

三 叙上のとおり、その主張の点に事実誤認の違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がない。

〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

フアイバーとセメント粒子若くはフアイバーとセメント粒子に適宜混入物を添加した乾燥せる混合物を、粉砕室内において回転するハンマーと衝撃板との協働により高速度の衝撃を与え、その摩擦によりこれを粉砕して上記混合物の緊密なる混和物となし、更にこの混和物を分散室内において回転するスパイクローラーにより空気中に懸濁する状態に分散せしめ、この懸濁混和物をコンペアベルト上に沈積してウ工ブ状に形成し、これに給水してセメントを水和し、次いでこのセメントの凝固により上記ウエブを硬化せしめることを特徴とするフアイバーセメント板製造方法。

本件審決理由の要点

本件審決は、本願発明の要旨を前項掲記のとおりと認定したうえ、これと杉田作三郎提出の甲第一号証のもの(以下「第一引用例」という。)及び同第二号証の一のもの(以下「第二引用例」という。)とを比較し、第一引用例には、本願発明の製造方法における粉砕室内での回転ハンマーと衝撃板によるフアイバーとセメント粒子の粉砕処理を除いた全工程を具えたフアイバーセメント板の乾式製造方法が示され、第二引用例には、本願発明の粉砕室と同様に、ハンマーと衝撃板との協働により原料を粉砕する粉砕機が示され、かつ、この粉砕機が本願出願前の昭和二十八年十月頃から野沢セメント株式会社において、セメントと石綿を粉砕混合するために公知の状態で使用されていたことも、審査手続における証人木村茂直の尋問調書から十分認められ、さらに、第一引用例の乾式製造法においては、その第一図及び第一項十六ないし二十二行の記載からみると、生原料は貯蔵庫あるいはホツパー11から分散室17に移り、ついでフエルト製造機15に送られ、22に示す注水を受けて硬化しているから、生原料はホツパーあるいは貯蔵庫中ですでにセメント粒子と石綿を粉砕混合した状態まで持ち来たされていることは明らかであり、したがつて、本願発明と第一引用例及び第二引用例とを比較した場合には、粉砕混合された原料を分散室を経てフエルト製造機に送り、フエルトを製造する乾式法である点において両者は一致し、しかも、本願発明において原料の前処理工程に用いる粉砕室も公知の粉砕室と格別差異のないものであることが了解できるから、結局、本願発明は、第一引用例記載のものに、その原料粉砕混合のために、公知の粉砕室を直結使用した程度にすぎず、この程度のことは、当業者であれば格別発明力を要することなく容易になしうるものであり、本願発明は、旧特許法(大正十年法律第九十六号)の発明を構成しない、としている。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!